弁護士コラム

婚姻費用の増額又は減額が認められるために必要な条件

2015.12.21

Q 妻とは別居中です。

今から約2年前に、裁判所で妻に支払う生活費(婚費)について、家庭裁判所の審判で月10万円と決められました。

当時は、私の年収が485万円でしたので、何とか月10万円でも払えたのですが、今は年収が425万円に減ってしまっており、月10万円では支払うのが厳しいです。

月6万円くらいに減らしたいと考えていますが、裁判所で決められた婚費を減額することは可能なのでしょうか。

A 審判の当時予測できない事情の変更であれば、減額が認められます。

婚姻費用や養育費の金額というのは、金額を合意した当時の双方の収入を基本として決められるのが裁判実務です。

したがって、その後に、どちらかの年収が下がってしまうなどの事情の変動が生じた場合には、以前に取り決めた金額を支払うことが客観的にも厳しくなってしまいますので、一度取り決めた金額を全く変更できないということはありません。

しかし、仮に何らかの事情の変更があったとしても、事情の変更がある度に逐一、婚姻費用分担金の額を変更しなければならないとすると、確定した一定額の婚姻費用分担金の支払を前提とする当事者双方の安定した生活を一方的に不安定なものとする結果ともなってしまいます。

したがって、裁判所は、安易に事情の変更による婚姻費用分担金の減額を認めてはくれません。

以上の考え方から、調停や審判確定後に婚姻費用の減額認められるためには、

「事情の変更による婚姻費用分担金の減額は、その調停や審判が確定した当時には予測できなかった後発的な事情の発生により、その内容をそのまま維持させることが一方の当事者に著しく酷であって、客観的に当事者間の衡平を害する結果になると認められるような例外的な場合に限って許される」

というのが裁判所の考え方です(東京高等裁判所平成26年11月26日判決)。

冒頭の質問の例は、東京高等裁判所平成26年11月26日判決の事例をモチーフにしたものですが、この裁判例は

・年収の減少は、約60万円程度で、減少率は12.5%であり、それほど大幅な減少とは認められない

・審判時において、給与収入の減少がどの程度まで予測されていたのか不明である

などと述べて、家裁が認めた婚費の減少の審判を取り消しており、再度事情変更についてしっかり判断するよう差し戻しています。

以上を踏まえますと、単に年収が多少下がった(上がった)という程度では婚費の増減は認められにくいと言えます。


2015年12月21日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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