Q 私は母と長年にわたり同居し、母のことを自宅で介護していました。
私には姉がいますが、姉は全く母のことには目もくれず、家に来ることもありませんでした。
母は生前私にとても感謝してくれ、母の遺産をすべて私に相続させるという遺言を書いてくれました。
しかし、母の死後に、母の遺言の内容を知った姉から
「遺言があっても、私には遺留分として4分の1の権利があるので請求をさせてもらう」(相続人は姉と私の二人だけです。)
と言ってきました。
姉に遺留分という権利が認められることは知っていますが、私は長年母の介護に尽力してきました。
このような介護による貢献を、寄与分として主張して姉の遺留分を減らすことはできないのでしょうか。
A 遺留分減殺請求に対して、寄与分の抗弁を主張することはできない、というのが民法及び裁判実務(東京高等裁判所平成3年7月30日判決)の考え方です。
遺産分割においては、介護による寄与分というものが認められる余地がありますが、遺留分の請求に対しては、寄与分というものは全く考慮されません。
それはなぜでしょうか。
その理由については、東京高裁平成3年7月30日判決は
「寄与分は、共同相続人間の協議により、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであり、遺留分減殺請求訴訟において、抗弁として主張することは許されない」
と述べています。
また、上記裁判例の解説(判例タイムズ760号280ページ)では
「遺留分額算定に関する民法一〇二八条以下の規定中に寄与分に関する民法九〇四条の二は準用されてなく(同法一〇四四条参照)、実体法上遺留分額算定に当たって寄与分を考慮する余地がない」
「手続的にみても、寄与分は、遺産分割の審判の申立てがあった場合など一定の場合に限って(同法九〇四条の二第四項)、しかも家事審判により形成されるものとされているから(家事審判法九条一項乙類九号の二)、遺留分減殺請求事件の訴訟手続において寄与分について判断することはできないというほかない。」
と説明されています。
要するに、
法律が規定していないので、認められない。
ということになります。
なぜ、法律は、遺留分に対する寄与分の抗弁というものを規定していないのか、その理由は「相続人の生活保障のために、相続人に最低限の権利を留保する」、という遺留分制度の趣旨から導かれるものと考えられます。
2016年1月10日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。