Q 例えば、長男が親と同居して親が死ぬまで介護をしていて、他の弟、妹らは親とは離れて暮らしていて特に親の介護もしていなかったような場合に、長男から
「自分が親の面倒を見ていたのだから、相続財産も多めにもらえるはずだ。」
という言い分が出されます。
このような言い分は認められるでしょうか?
A 寄与分を主張することにより相続分を多く取得できる可能性があります。
親が死亡して子どもが数人いる場合、相続の際には、親が亡くなる前に親の面倒を見ていた者とそうでない兄弟との間で対立が生じるということがよくあります。
本件のような長男の言い分を、法律的には「寄与分」(民法904条の2)と言いますが、この寄与分というものは、単に面倒を見ていたという程度では認められず「特別な寄与」があったと認められなければなりません。
親の面倒をみることは、子どもであれば当然のことですから、常識的な援助(例えば、親が入院しているときに世話をした等)をしていただけでは認められることは難しいです(大阪家庭裁判所堺支部平成18年3月22日審判)。
特に、親の「財産」の維持等に貢献したという事情、例えば子の貢献によって財産が増えた、又は余計な出費が減ったといった事情があることが重要なのです。
では、どのような行為があれば寄与分が認められるのでしょうか。
寄与分が認められる行為の類型を整理すると
①家業従事型(親の家業を助けていた場合)
②金銭等出資型(親に金銭を贈与した場合)
③扶養型(親の生活の世話などをした場合)
④療養看護型(親の介護をした場合)
⑤財産管理型(親の財産を管理した場合)
に分かれます。
調停では、本件のように親の介護をしていた場合に寄与分の主張がされるということは非常に多いですが、介護の場合も、やはり、子の介護によって親が介護費用を免れた等といった財産的な側面が重要なのです。
約2年間で5回の入院し、それ以外でも毎日親の入院時の世話をしたり、(毎朝新聞やお菓子等を届け、夕方に洗濯物を持ち帰った。)、また、通院の付き添いをしたという子が寄与分を主張したという事案では、その程度のことは扶養の範囲ということで「特別の寄与」とは認められませんでした。
【判旨:大阪家庭裁判所堺支部平成18年3月22日審判】
「1(1)ア 相手方Bは、昭和58年11月ころ、妻子と共に、F及び被相続人と同居して生活するようになり、F死亡後は、引き続き被相続人と同居して生活した。
イ 被相続人は、平成10年ころから平成12年2月ころまでの間に、胃潰瘍、ぜん息、白内障、腰痛等及び変形性脊椎症等の治療を受けるため、合計6回入院した(入院期間は、5回は1か月程度、1回は2か月程度である。)。また、被相続人は、平成12年11月ころから、毎日のように理学療法を受けるために通院し、その後、2週間に1度程度、内科及び整形外科で治療を受けるために通院した。
ウ 相手方Bは、被相続人の入院時の世話をし(毎朝新聞やお菓子等を届け、夕方に洗濯物を持ち帰った。)、また、通院の付き添いをした。
(2) 相手方Bは、上記のとおり、被相続人の入院時の世話をし、また、通院の付き添いをしていたものであるが、これは同居している親族の相互扶助の範囲を超えるものであるとはいえない上、これによって、被相続人が特別にその財産の減少を免れたことを認めるに足りる資料は見当たらない。そうすると、これをもって、相手方Bに被相続人の財産の維持につき特別の寄与があったとみることはできない。」
2015年11月30日更新