弁護士コラム

賃貸借契約が更新された場合における、保証人の責任と改正民法の適用についての注意点

2020.06.03

【賃貸人からの質問】

私は、ワンルームマンションを所有していますが、賃借人との賃貸借契約は2018年5月1日に締結しました。その際に連帯保証人にも契約書にサインをしてもらっています。民法改正前でしたので、保証人の責任について極度額の定めは規定していません。

 

契約期間は2年間でしたので、2020年5月1日に賃借人と合意更新の契約をすることになり、賃借人と更新契約書を交わしました。更新の際は、保証人からはサインはもらっていません。

 

ここで一つ気になるのは、2020年4月1日の改正民法施行後は、保証人については、保証の限度額(極度額)を契約で定めなければ保証契約は無効になると聞きました。

更新の際に、保証人とも新たに、極度額を定めた保証契約を結ばなければ、保証は無効となってしまうのでしょうか。

【説明】

2020年4月1日に施行された改正民法の465条の2第2項により、保証人が負うべき限度額(極度額)を定めなければ、保証契約は効力を生じないと規定されました。

*改正民法465条の2第2項

2.個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

したがって、改正民法においては、賃貸借契約において保証契約が効力を生ずるためには、契約書において保証人の負うべき極度額を「●円」とか「月額賃料の●ヶ月分」といった形で規定をしなければなりません

では、例えば、本件のように、

・当初の賃貸借契約と保証契約は改正民法前に締結された(極度額については規定していない)

・改正民法施行後に、賃貸借の更新契約が締結された

という場合に、保証契約の扱いはどうなるのでしょうか。

まず、前提として、賃貸借の更新契約の締結の際に、保証人とも新たに保証契約をしなければ更新後は保証契約は効力を失ってしまうのか、という問題があります。

この点については、最高裁判所平成9年11月13日判決が以下のように述べて、原則として、改めて保証人と契約を締結しなくとも賃貸借契約更新後も保証人の責任は継続すると判断しています。

「期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである。」

以上を踏まえると、本件の問題は

①賃貸借契約の更新の際に、保証人とも改めて保証契約の取り交わしをする

②賃貸借契約の更新の際に、保証人とは別途書面の取り交わしはしない

の2つの場合に分けて考える必要があります。

まず、①の場合は、改正民法施行後に新たな保証に関する合意があったといえるため、保証契約は改正民法の適用を受けることになります。

したがって、保証契約の更新において、極度額の定めをしなければ、保証は無効となってしまいます。

次に②の場合ですが、この場合、更新時に、新たに保証人と契約をしなくとも前述の最高裁判例の解釈に基づけば、当初の保証契約の責任の効力が、更新によっても失われずにそのまま継続するものと解されます。

そして、改正民法施行後に、保証契約に関し新たに合意をするものでもありませんので、改正民法の適用は受けず、極度額を別途定める必要もない、というのが法務省の見解のようです。

以上を踏まえると、改正民法施行後の賃貸借契約の更新において、保証人からも何かしらの書面にサインを貰う場合には、改正民法の規定を意識した対応が必要になることに注意が必要です。


この記事は2020年6月3日時点の情報に基づいて書かれています。

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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