【質問】
父が亡くなりました。
相続人は、母と、子である私長男、次男、三男、四男です。
父は広土地をいくつか所有していましたが、母が「お父さんの土地は私が生前にお父さんからもらったものだ」と言い張り、なかなか協議に応じようとしませんでした。
我々子としては、母が全て遺産を相続しても、母が亡くなったら子どもたちに相続ということになる見通しだったので、やむなく母の意向を受け入れ、父の遺産は全て母が相続する、と言う遺産分割協議をしました。
しかし、その約1年後、父の自筆証書遺言が見つかりました。
その内容は、遺産の土地は、母ではなく、我々子どもたちにそれぞれ相続させる、という内容の遺言書でした。
もし、この遺言書の存在を知っていれば、母に全て相続させるという遺産分割協議はしなかったと思います。
今から、遺産分割協議を無効にすることはできるでしょうか。
【説明】
遺産分割協議とは、法的に言えば、遺産の処分に関する相続人間の合意ということになります。
そして、その合意をするにあたって錯誤がある場合には、その合意は無効であると主張することができます。
錯誤とは、簡単に言えば「もしその事実を知っていれば、こんな合意はしなかった。」という状況のことです。
これを本件について言い換えれば、遺産分割協議を後から無効とできるかどうかは
「もし遺言書の存在を知っていれば、こんな遺産分割協議はしなかった」
と言えるかどうか、ということが問題となるわけです。
この点について判断をしたのが、最高裁平成5年12月16日判決です。
この最高裁は、
「相続人が遺産分割協議の意思決定をする場合において、遺言で分割の方法が定められているときは、その趣旨は遺産分割の協議及び審判を通じて可能な限り尊重されるべきものであり、相続人もその趣旨を尊重しようとするのが通常であるから、相続人の意思決定に与える影響力は格段に大きいということができる。」
と述べた上で、
「遺言の存在を知っていれば、特段の事情のない限り、本件土地を妻が単独で相続する旨の本件遺産分割協議の意思表示をしなかった蓋然性が極めて高いものというべきである。」
と判断し、遺産分割協議は無効になるとの判断を示しました。
この最高裁の通り、「もし遺言の存在を知っていれば、このような遺産分割協議はしなかった。」と言えれば、遺産分割協議は無効となります。
なお、この最高裁の判断については、遺産分割協議の内容と遺言の内容が全く異なるものであったことが判断のポイントになっている、という指摘がされています。
したがいまして、遺産分割協議をした後に遺言書が発見された場合、無条件で遺産分割協議が無効となるわけではなく、例えば、遺言書の内容と遺産分割協議の内容の相違の程度が小さい場合などは、錯誤はないとして、遺産分割協議は無効とはならない可能性もあるということには留意が必要です。
2018年10月18日
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。