【建物借主からの相談】
私は、知り合いの不動産業者から、新宿区内の古いアパートを安く借りれるという話をもちかけられました。
二室で家賃が合計7万5000円と格安でしたので、副業で民泊をやろうと思い、この古アパート2室を借りることにしました。
契約書には、住居として使用するという目的が明記されていましたが、これに加えて「建物を転貸することを承諾する」という条項も入っていました。
このため、私はこの転貸の条項があれば、民泊も大丈夫だろうと考え、契約時に、アパートのオーナーには、私が民泊をするつもりであるということは伝えませんでした。
アパートを借りた後、民泊運営会社に委託して、このアパート2室を民泊に出していましたが、その後、利用者が間違って他の住人の部屋に入ろうとしたり、ゴミ出しのルールを守らなかったりというトラブルが度々起こってしまいました。
このため、他の住民や保健所からアパートオーナーに苦情や指導があったようで、私のところにアパートのオーナーから、「民泊に使用していたことは契約違反だから解除する」という通知がありました。
確かに契約時にはアパートオーナーには民泊をするということは、はっきりとは説明しませんでした。しかし、契約書には「転貸も可能」と書いてあったのですから、民泊に使用しても問題ないと思っていました。
私の主張は認められないのでしょうか。
賃借物件を民泊として使用する場合の問題
本件は、東京地方裁判所平成31年4月25日判決の事例をモチーフにしたものです。
本件では、契約時に、物件を民泊に利用するということは明示的に合意されておらず、また、使用目的は住居として使用すると規定されていましたが、「転貸を可能」とする特約が契約書に設定されていました。
民泊と言うのは、いわば又貸し(転貸)をするようなものですので、
「転貸可能特約が設定されていれば民泊の利用は契約違反とはならないのではないか。」
という点が主な問題となった事例です。
また、民泊の利用が契約違反になるとしても、賃貸借契約における契約の解除は「信頼関係破壊の法理」(契約違反の事実に加えて、その違反の事実によって貸主と借主との間の信頼関係が破壊されたと言えることが必要)が適用されるため、
「借主が賃借物件を民泊に使用していたことによって信頼関係が破壊されたと言えるか。」
という点も問題となりました。
住居目的の賃借物件を民泊で使用した場合、契約違反(用法順守義務違反)になる
まず、「転貸を可能」とする特約が契約書に設定されていたことから、この特約により民泊の利用が契約違反とはならないのではないか。」との点について、裁判所は、契約書において「住居としての使用」に限られているという点を重視し、転貸が可能という特約があったとしても、民泊での使用までは認める趣旨ではないと判断しました
「本件賃貸借契約には,転貸を可能とする内容の特約が付されているが,他方で,本件建物の使用目的は,原則として被告の住居としての使用に限られている。
これによれば,上記特約に従って本件建物を転貸した場合には,これを「被告の」住居としては使用し得ないことは文理上やむを得ないが,その場合であっても,本件賃貸借契約の文言上は,飽くまでも住居として本件建物を使用することが基本的に想定されていたものと認めるのが相当である。」
「特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用の場合と,1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用の場合とでは,使用者の意識等の面からみても,自ずからその使用の態様に差異が生ずることは避け難いというべきであり」、「転貸が可能とされていたことから直ちに民泊としての利用も可能とされていたことには繋がらない。」
民泊での使用による信頼関係の破壊の有無
また、「借主が賃借物件を民泊に使用していたことによって信頼関係が破壊されたと言えるか。」という点については、裁判所は、
「本件建物を民泊の用に供することが旅館業法に違反するかどうかは措くとしても,」「現に,aアパートの他の住民からは苦情の声が上がっており,ゴミ出しの方法を巡ってトラブルが生ずるなどしていたのであり,民泊としての利用は,本件賃貸借契約との関係では,その使用目的に反し,賃貸人である原告被承継人との間の信頼関係を破壊する行為であったといわざるを得ない。」
と述べて、信頼関係も破壊されたとして解除を認めました。
なお、この事案で、借主は、ゴミの問題については「民泊の利用者用のゴミ捨て場としてポリバケツを独自に設置するなどの手配をした」と主張して、なお信頼関係は破壊されていないなどとも反論しましたが、この点について裁判所は、
「民泊の利用者が出すゴミは,民泊という事業活動に伴って生じた産業廃棄物に当たるものとして,上記の処理方法は廃棄物の処理及び清掃に関する法律に違反するとされる余地があるから,被告において上記手配をしたことをもって信頼関係の破壊が生じておらず,又はこれが回復したと認めることはできない。」
と述べて反論を排斥しています。
住居としての使用目的が契約書で定められている賃借物件の民泊使用は、契約の解除原因となる可能性が高い
この裁判例の判断を踏まえると、住居での使用目的の物件を民泊として使用することは、たとえ転貸が可とされている物件であっても、用法順守義務違反に該当する可能性が高いということになります。
また、このような物件を民泊で使用すること自体、賃貸人として全く想定していない使用態様であり、オーナーや他の入居者ともトラブルになる可能性が高い使用態様である以上、貸主の承諾なく民泊に使用していた場合は、信頼関係を破壊するものとして解除原因となる可能性は高いと考えられます。
したがいまして、このような賃借物件を民泊として使用するのであれば、明示的に貸主の承諾を得て行うことが必須と言えるでしょう。
この記事は、2022年6月3日時点の情報に基づいて書かれています。
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。