Q 夫が会社の部下と不倫しました。
とてもショックを受けましたが、夫が謝ってきて不倫相手との関係を解消してくれたことや、子どもがまだ小さいので、子どものことなどを考えて離婚はせずに踏みとどまることにしました。
しかし、夫の不倫相手の女性のことは許せないので相手の女性に慰謝料請求をしたいと考えています。
慰謝料はどれくらい請求できるのでしょうか?
A 離婚した場合と比べて半分以下の金額になる可能性があります。
不倫というのは、法律的には、不倫をした夫とその女性の二人が、共同して妻の地位を侵害した、という共同不法行為(民法719条)と評価されます。
したがって、その損害賠償責任というものは、夫と不倫相手の女性が二人で共同して負うことになります。
不倫によって、結果的に夫婦が離婚に至ってしまった場合には、雑な言い方をすれば不倫の破壊力が高かったために婚姻関係も壊され、妻のダメージもそれだけ大きかったと評価されますので、慰謝料の金額も高くなります(相場では300万円前後です)。
他方で、今回のテーマのように、夫が不倫したものの、最終的に妻が許して離婚にまで至らなかった場合、不倫の破壊力はそこまで高くなく、離婚に至らなかったという意味で妻のダメージも修復可能なものと評価されるため、慰謝料の金額も低額となる傾向があります(50~150万円くらいとなることが多いようです)。
このように慰謝料の金額は、まず不倫によって結果的に夫婦が離婚したか否かということが、慰謝料の金額を決するための大きな分かれ道となります。
もっとも、その他、不倫に至る経緯が問題とされることもあります。
例えば、夫が不倫相手に執拗に交際を迫りなかなか別れようとしなかった場合には、不倫相手の責任はそれほど高くなかったと評価されるので、不倫相手への慰謝料は低くなるでしょう。
逆に、不倫相手が夫に対して職場の権限などを濫用して交際を迫ったような場合(パワハラ等)には、不倫相手に対する慰謝料は高額なものとなる可能性があります。
東京地裁平成4年12月10日判決のケースは、夫が不倫し、結果的に離婚はしなかったけれども妻から不倫相手に慰謝料を請求したというケースにおいて、不倫相手は夫の不倫関係を解消しようとしたものの夫が不倫相手となかなか別れようとしなかったこと、夫婦が結果的に離婚せずに夫婦関係が修復されたことなどを理由として、妻が500万円の慰謝料の請求をしたことに対して、裁判所は50万円のみを認めました。
【判旨:東京地裁平成4年12月10日判決】
「被告は原告と一郎とが婚姻関係にあることを知りながら一郎と情交関係にあったもので、右不貞行為を契機として原告と一郎との婚姻関係が破綻の危機に瀕し原告が深刻な苦悩に陥ったことに照らせば、原告がこれによって被った精神的損害については不法行為責任を負うべきものである。しかしながら、婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあるというべきであって、不貞の相手方において自己の優越的地位や不貞配偶者の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて不貞配偶者の意思決定を拘束したような特別の事情が存在する場合を除き、不貞の相手方の責任は副次的というべきである。
本件においては、
(1) 被告と一郎との関係は、職場における同僚であるが、一郎は主任として被告の上役にあったものであって、被告において一郎の自由な意思決定を拘束するような状況にあったものとは到底認められず、前記認定事実に照らせば、むしろ、右両名が不倫関係に至り、これを継続した経緯においてはどちらかといえば一郎が主導的役割を果たしていたものと認められること、
(2) 原告と一郎の婚姻関係において不和を生じ、破綻の危機を招来したことについては、確かに被告と不倫関係を生じたことがその契機となっているとはいえ、夫婦間の信頼関係が危機状態に至ったのは一郎の生来の性格ないし行動に由来するところもあるものと認められ、また、一郎がこのような行動をとったことについては、原告と一郎との夫婦間における性格、価値観の相違、生活上の感情の行き違い等が全く無関係であったかどうかは疑問であること、
(3) 婚姻関係破綻の危機により原告が被った精神的苦痛に対しては、第一次的には配偶者相互間においてその回復が図られるべきであり、この意味でまず一郎がその責に任ずるべきところ、原告はこの点について一郎に対する請求を宥恕しているものと認められること、
(4) 原告が本件訴訟を提起した主たる目的は被告と一郎との不倫関係を解消させることにあったところ、本件訴訟提起の結果被告と一郎との関係は解消され、この点についての原告の意図は奏功したものと認められること、
(5) この結果、原告と一郎との夫婦関係はともかくも修復し、現在は、夫婦関係破綻の危機は乗り越えられたものと認められること(この点につき、原告は、本人尋問において、一郎と離婚するつもりであり、夫婦間の性交渉も拒否していることを供述するが、一郎は証人尋問において、原告から明確な形で離婚を求められたことはなく、平成四年五月以降は性交渉を含めて平穏な夫婦関係に復している旨を証言しているものであって、原告の右供述は、一郎の右証言内容及び周囲の客観的状況(原告と一郎は同居しており、現在に至るまで、原告から一郎に対して離婚調停、離婚訴訟等は一切が提起されていないことはもとより、離婚について親族を含めての話し合いが持たれたこともない。)に照らし、にわかに信じることはできない。原告本人の右供述は、法廷当事者席の被告に聞かせることを意識しての発言というほかはない。)、
(6) 被告と一郎との関係解消は、一郎の反省によるというよりも、むしろ被告の主体的な行動により実現されたものであって、被告が勤務先を退職して岩手県の実家に帰ったことによって最終的な関係解消が達成されたこと、
(7) 被告自身も一郎との不倫関係については相応に悩んでいたものであって、一郎との関係解消に当たって、勤務先を退職し、意図していた東京における転職も断念して岩手県の実家に帰ったことで、相応の社会的制裁を受けていること(これに対して、一郎は、従来の職場に引き続き勤務しているものであって、少なくとも社会生活上の変化はない。)
等の各事情が指摘できるところである。
右各事情に加えて、その他本件において認められる一切の事情を考慮すれば、本訴において認容すべき慰謝料額は金五〇万円をもって相当と認める(ところで、原告の被った精神的苦痛に対しては、一郎も不法行為に基づく損害賠償債務を負うことが明らかであるところ、被告の義務と一郎の義務とは重なる限度で不真正連帯債務の関係にあって、いずれかが原告の損害賠償債権を満足させる給付をすれば他方は給付を免れ、給付をした者は他方に対して負担割合(本件においては、一郎の負担割合は少なくとも二分の一以上と認められる。)に応じて求償することのできる関係にある、と解される。)。
なお、付言するに、本件においては、現在、本件訴訟の提起を契機として被告と一郎との関係は完全に解消されており、被告においてはもはや一郎との交際の再開を全く考えておらず、一郎においても、被告と関係を持ったことを反省して、原告との夫婦関係を修復してこれを維持していくことを強く希望していることが認められるものであるから、原告においても、過去における被告と一郎との関係に徒らに拘泥することなく、今はむしろ、一郎との間の夫婦関係を速やかに修復して、ふたりの間の信頼関係の構築に務め、今後夫婦関係を平穏、円滑に発展させていくことが、強く望まれるところである。」
2015年11月30日更新
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。