弁護士コラム

2回の更新料の不払い等が信頼関係を破壊したとして建物賃貸借契約の解除を認めた事例

2018.11.01

建物の賃貸借契約では、一般的に契約期間は2年〜3年間とされ、契約期間終了時に契約の更新をする場合には「新賃料の1ヶ月分」を更新料として支払う、という約定がなされているケースが多いです。

そのため、賃貸管理の実務では、概ね契約期間満了の1〜3ヶ月くらい前に、賃貸人側から「契約更新のお知らせ」などと題した書面を賃借人に送付して更新意思の有無を確認し、更新希望の場合には更新契約書等の取り交わしと併せて更新料の支払いが行われるということが多々行われています。

しかし、賃貸人の管理や修繕対応等で不満を持っている賃借人がいる場合などには、当該賃借人から

「更新はするけど、対応を改善してくれなければ更新料を支払わない」

という対応をされるというケースもあります。

このような対応をされた賃貸人側としては、

「更新料を支払わなければ契約を更新しない(解除する)」

という主張をして争いたい、ということになってきます。

そのため、「更新料の不払いにより賃貸借契約を解除できるか」という点が問題となるわけです。

解除が認められるかどうかは、賃貸借契約における紛争の解釈指針である「信頼関係破壊の法理」がここでも通用しますので、

「更新料の不払が賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせるに足る程度の著しい背信行為」

と言えるかどうかにより解除の成否が判断されることになります。

この争点を巡っては多くの裁判例がありますが、今回紹介するのは、更新料2回の不払いにより解除が認められた東京地裁平成29年9月28日判決の事例です。

この事例は、月額賃料5万6000円、契約期間2年間、更新時に更新料として賃料1月分を支払う旨定められていた建物賃貸借契約の事案で、賃借人が2回の更新時期にいずれも更新料の支払いを拒んだため、賃貸人が契約解除・建物明渡の訴訟をしたという事案です。

賃借人側は、更新料の支払いを拒んだのは「賃貸人が更新後契約書を交付しなかったこと、部屋の鍵を修理してくれないこと、共用部分の掃除をしてくれなかったことが原因であり、これらを改善してくれれば払うつもりだった」などと反論して争いました。

この事案で、裁判所は賃貸人側の請求を認め、賃借人に建物の明渡しを命じました

その理由としては、裁判所は以下のように述べています。

① 原告としては,被告が本件更新料を支払うことを合意したからこそ本件賃貸借契約を2回にわたり更新したのであり,他方,被告としても,本件更新料を支払うことを合意して本件賃貸借契約の更新を得たのであるから,本件更新料の支払は,更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ,本件賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものといえる。

したがって,本件更新料の不払は,不払の態様,経緯その他の事情からみて,原被告間の信頼関係を著しく破壊すると認められる場合には,更新後の本件賃貸借契約の解除原因となり得るものというべきである(最高裁昭和59年4月20日第二小法廷判決)。

② そこで,本件更新料の不払の態様等についてみると,被告は,原告に対し,平成26年11月15日の第1回更新によって第1回更新料(5万3700円)の支払義務を負い,原告からの支払催告も受けていたにもかかわらず,口頭弁論終結時までの2年9か月あまりもの間,同義務を履行していない。また,被告は,原告に対し,平成28年11月15日の第2回更新によって第2回更新料(5万3700円)の支払義務を負い,原告からの支払催告を受けていたにもかかわらず,口頭弁論終結時までの9か月あまりもの間,同義務を履行していない。

③ この点,被告は,本件更新料を支払わない理由を縷々述べて,原告が被告の要求に応じない限り,今後も本件更新料を支払う意思はない旨を明言するが,本件更新料の支払義務は第1回更新及び第2回更新によって直ちに生じており,原告が被告の要求に応じることは同義務の発生条件にも履行条件にもなっていないから,被告において本件更新料を支払わなくてもよいとする法的な根拠はない。

④ このように,被告は,不払の理由にならないことを縷々述べて,本件更新料の支払を明確に拒絶していることに加え,原被告間には賃料等保証委託や本件建物の火災保険の加入をめぐっても意見の対立があり,原被告間において建設的な話合いが行われることは困難な状況であるといえることをも併せ考慮すれば,今後,被告において,原告に対し本件更新料を任意に支払うことは期待できず,本件更新料の不払の問題を原被告間の協議に委ねたとしても自主的な解決は期待できないものといわざるを得ない。

とした上で、

「以上のように,本件更新料の不払の期間が相当長期に及んでおり,不払の額も少額ではないこと,被告が合理的な理由なく本件更新料の不払をしており,今後も当該不払が任意に解消される見込みは低く,原被告間の協議でその解消を図ることも期待できないことなどに照らすと,本件更新料の不払は賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせるに足る程度の著しい背信行為であるということができる。」

と述べて、賃貸人側からの解除の主張を認めました。

本件は、更新時期が2回経過したが2回とも更新料を支払わず、不払いから長期間経過しているという点を重視しているようにも見えますが、それ以外の事情(協議の経過など)も認定をしています。

そのため、更新時期が1回で不払いも1回だった場合に、本事例の射程が及ぶかどうかは明らかではありません。

いずれにしても、解除を主張する賃貸人側としては、不払いの回数・期間のみならず、信頼関係が破壊されているという点について、周辺事情も含めて主張・立証する必要があるということになります。


2018年11月1日更新

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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