
【40年以上居住している賃借人からの相談】
私は現在70代で、妻と二人で東京都千代田区にある木造アパートの1階部分(約47平米)を借りて生活しています。
このアパートには昭和48年の新築当初から入居しており、居住期間はすでに40年以上になります。入居当初からの付き合いだった先代の大家さんは、家賃を安く据え置いてくれており、現在の家賃は月額9万円です。
ところが、数年前に先代の大家さんが亡くなり、相続した新しい大家さんから、先日突然、「建物を建て替えてマンションにしたいので出て行ってほしい」と言われました。
大家さんからは「建物が築43年で老朽化しており耐震性もない」「相続税の支払いのために土地を有効活用する必要がある」「近隣はビルばかりで、古い木造アパートは不経済だ」というものです。
当初、大家さんからは立退料として「256万円」の提示がありました。内訳は、現在の家賃と転居先家賃の差額の2年分や引越し費用、過去の雨漏りに対するお見舞金などです。
しかし、私たちはこの場所で40年以上生活しており、生活の基盤はすべてここにあります。千代田区内で同じような広さの部屋を借りようと思えば、家賃は20万円以上します。
また、過去に雨漏りの被害に遭った際、大家さん側がすぐに修理してくれず、布団が水浸しになるなど辛い思いをした経緯もあり、大家さんの誠意を感じられません。
私たちは、懇意にしている不動産業者の助言で、立退料約2600万円が相当であると主張しました。
大家さんの提示額とは約10倍、金額にして2000万円以上の開きがあります。裁判になった場合、果たして私たちの主張は認められるのでしょうか。
1.借家契約の解約と「正当事由」について
本件は、東京地裁平成28年12月22日判決をモチーフにした事例です。
賃貸人が、期間の定めのない建物賃貸借契約を解約し、賃借人に対して明渡しを求めるためには、法律上の「正当事由」が必要です(借地借家法第28条)。単に「建物が古いから」「建て替えたいから」という理由だけでは、直ちに立ち退きが認められるわけではありません。
借地借家法第28条は、正当事由の有無を判断する際に考慮すべき要素として、以下の4つを規定しています。
4つの要素
1 建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情
2 建物の賃貸借に関する従前の経過
3 建物の利用状況及び建物の現況
4 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として、財産上の給付(いわゆる立退料)をする旨の申出をした場合におけるその申出
正当事由の判断に当たっては、上記の1が最も基本的な判断要素となります。
実務においては、賃貸人側の「明け渡してもらう必要性」と、賃借人側の「使い続ける必要性」を比較考量します。そして、賃貸人側の事情だけでは正当事由が不足する場合に、それを補完する要素として「立退料」が支払われることで、明渡しが認められるということが一般的となっています。
本件においても、賃貸人側の事情だけでは正当事由が不足していたため、立退料の金額の算定が主要な争点となりました。
特に、立退料の算定において、都心の高額な土地において、立退料の算定根拠を「借家権価格(土地や建物の価値に対する割合)」で計算すべきか、それとも「実質的な損失(転居に伴う家賃差額など)」で計算すべきか、という点が問題となりました。
