
不動産売買契約のローン条項に基づく解除において、事前に金融機関から提示されていた融資条件と異なる内容で融資申込みをした場合、ローン条項に基づく解除が認められるか
【投資用不動産の購入者からの相談】
私は会社員で、不動産投資を行っており、千葉市に1棟アパートを所有しています。
ある時、不動産仲介業者から東京都内の木造アパート1棟を2200万円で購入しないかと紹介されました。なお、当該物件は、敷地の接道間口が約1.41mしかないため、いわゆる再建築不可物件でした。私は、再建築不可物件であることは認識していたものの、その分相場よりも安く購入することができると考え、購入を検討することにしました。
購入を検討するに当たり、仲介業者を通じて、ある金融機関に事前相談を行ったところ、当該金融機関の担当者からは、
①購入する物件のほかに、すでに私が所有している千葉市のアパートを共同担保として提供する場合は、自己資金200万円で2000万円の融資が可能
②共同担保を提供しない場合は、購入価格の4割(約880万円)を自己資金として用意する必要がある
との融資条件が提示されました。
私は、上記①の条件であれば資金計画上問題ないと考え、売買契約を締結し、手付金100万円を支払いました。
売買契約書のローン条項には、「融資金額2000万円」「融資承認予定日まで」に融資の承認が得られない場合は、契約を解除できる旨が記載されていました。
ところが、売買契約締結後、私は、千葉市のアパートを共同担保にすることに不安を感じるようになり、共同担保を提供せずに2000万円の融資を申し込みたいと考えるようになりました。
そこで、私は、金融機関に直接出向いて、共同担保を提供せずに2000万円の融資を申し込みたい旨を伝えたところ、金融機関からは「事前に提示した条件に応じられないのであれば融資はできない」と拒絶されてしまいました。
私としては、結果として融資の承認が得られなかったので、売買契約書のローン条項に基づき売買契約を解除し、手付金100万円を返してもらいたいと伝えました。
しかし、売主側は、「事前に提示された融資条件と異なる内容で融資申込みをしたのだから、ローン条項に基づく解除はできない」「契約違反であるから、違約金440万円を支払え」と主張しています。
私の主張は認められないのでしょうか。
1 ローン条項(融資特約)とは
本事例は、東京地方裁判所平成26年4月18日判決(手付等返還請求事件、違約金請求反訴事件)の事例をモチーフにしたものです。
不動産の売買契約においては、買主が金融機関から融資を受けることを前提として売買契約を締結することが多いのが実情です。そこで、買主側の事情としては、想定していた融資が受けられなかった場合にも、手付金を放棄したり違約金を負担したりすることなく、売買契約を白紙解除できるような形にしたいと考えるのが通常です。
このため、不動産の売買契約においては、「ローン条項(融資特約)」と呼ばれる、買主が金融機関から融資の承認を得られなかった場合に、売買契約を白紙解除できる旨の特約が付されることが一般的です。
2 ローン条項が適用されない場合
このローン条項は、買主が金融機関に対して全く融資申込みを行わなかったり、明らかに承認の見込みがない内容で形式的な申込みをしたりした場合にまで適用されるものではないと一般に解されています。
すなわち、ローン条項に基づく解除を主張するためには、買主側において、売買契約時に想定されていた融資条件や、仮審査等で事前に示された融資条件に沿って融資の申込みを行ったことが前提となります。
もっとも、ローン条項を定めたとしても、買主が金融機関に対してどのような内容で融資の申込みをすべきかについて、契約書上に明確な定めがないことも少なくありません。
そのため、買主が事前に金融機関から示された融資条件とは異なる内容で融資の申込みを行い、その結果として融資の承認が得られなかった場合に、ローン条項に基づく解除が認められるのか、という点が問題となります。
本事例においては、まさにこの点が争点となりました。
3 ローン条項に融資条件が明確に記載されていない場合は?
東京地方裁判所平成26年4月18日判決の事例では、売買契約書上は、ローン条項においては融資金額及び金融機関名が表示されているにとどまり、共同担保を提供する旨の記載はありませんでした。
このような状況において、買主は、事前に金融機関から、①共同担保を提供する場合は自己資金200万円で2000万円の融資が可能、②共同担保を提供しない場合は購入価格の4割の自己資金が必要、という融資条件が提示されていたにもかかわらず、共同担保を提供せずに2000万円の融資を申し込み、金融機関から拒絶されたというものでした。
そこで、ローン条項が適用されるかが問題となったのです。
なお、本事例の対象不動産は、敷地の接道間口が約1.41mしかない再建築不可物件であり、本件不動産単独では担保価値が低く評価されるため、金融機関が共同担保の提供を融資条件に組み込んでいたものと推察されます。
4 裁判所の判断は?
ローン条項の趣旨
本事例において、裁判所は、まず、ローン条項の趣旨について以下のとおり述べています。
「本件ローン条項のような、いわゆるローン条項は、買主において、金融機関から融資が受けられず、そのために残代金を支払うことができなかった場合でも、手付金の放棄や違約金の負担をすることなく買主が売買契約を白紙解除することができるという、買主を保護するための条項であって、一般にこのような条項が売買契約に付される場合、売買契約の締結に先立ち買主側で金融機関に事前相談を行い、融資の見通しを示された上で売買契約を締結し、この見通しに沿って融資の申込み(本申込み)を行うことが予定されている」
その上で、裁判所は、ローン条項に基づく解除が認められる融資申込みの内容について、
「ローン条項が適用される融資の申込みとは、金融機関から示された見通しに沿った内容での申込みと解するのが、売主及び買主双方の通常の意思にかなうものである。」
と判断しました。
ローン条項の適否
そして、本事例においては、買主が事前に仲介業者を通じて金融機関から融資条件(共同担保を提供すれば2000万円の融資が可能等)の提示を受け、その内容を認識した上で売買契約を締結していたという事実認定の下で、裁判所は、
「本件ローン条項は、原告らが所定の期間内に本件融資条件に沿った融資申込み(本申込み)をしたにもかかわらず融資の承認が得られなかった場合に適用されるものと解するのが相当である。」
と判断し、買主が事前に提示された融資条件に沿った形で融資の申込みをせず、共同担保を提供しない形で融資を申し込み拒絶されたという経緯では、ローン条項に基づく解除の要件を満たさないと結論付けました。
共同担保の記載が売買契約書に記載されていなかった点について
なお、買主側からは、「売買契約書には、共同担保を提供して融資を申し込む旨の記載はない」との反論もなされましたが、裁判所は、
「売買契約書上は、融資金額及び金融機関名が表示されているにとどまり、共同担保を提供する旨の記載はないが、・・・原告X1は本件融資条件の内容を認識した上で本件売買契約を締結している以上、売買契約書に共同担保を提供する旨の記載がないことをもって、共同担保を提供せずに本件金融機関に対して2000万円の融資を申し込む場合にも本件ローン条項が適用されるものと解することはできない。」
と述べ、売買契約書の記載のみをもって、ローン条項の適用範囲を判断するのではなく、売買契約締結に至る経緯において当事者間で実質的に合意されていた融資条件の内容を踏まえて判断すべきとしています。
その結果、本事例では、買主のローン条項に基づく解除は無効とされ、買主が残代金の支払いを拒絶したことを理由に売主からの債務不履行解除が有効とされ、買主は約定の違約金(手付金100万円を控除した残額340万円)の支払いを命じられています。
まとめ
本判決は、ローン条項に基づく解除を主張するためには、買主は、事前に金融機関から示されていた融資条件に沿った内容で融資の申込みを行う必要があり、これと異なる内容で融資申込みをして拒絶された場合には、ローン条項に基づく解除は認められない、という点を明確にした事例として参考になります。
買主側としては、売買契約を締結する前の段階で、金融機関から提示されている融資条件の内容(特に共同担保提供の要否や自己資金の額等)を正確に把握し、当該条件で実際に融資を受けられるのか、また、当該条件を実際に履行する意思があるのかを慎重に検討した上で、売買契約の締結に踏み切る必要があります。
他方、売主側としても、ローン条項に基づく解除を主張された場合には、契約締結に至る経緯において、買主がどのような融資条件の提示を受け、どの内容を前提として売買契約を締結したのかを丁寧に立証する必要があるといえます。
この記事は、2026年4月29日時点の情報に基づいて書かれています。
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。
