
【買主からの相談】
私は、令和2年9月、自宅を新築する目的で、妻とともに、個人の売主から東京都内の宅地(面積約72平方メートル)を代金6700万円で購入し、同年12月に引渡しを受けました。
この土地の販売チラシには「整形地・更地」と表示されていました。また、売主は、売却に先立って土地上の古い建物を解体しており、契約の際に交付された物件状況等報告書には、チェック方式で「地中埋設物を発見していない」「越境がない」と記載され、備考欄には、建物解体時に地中からガラ(コンクリート片などの廃材)を撤去し、土を入れた旨が記載されていました。なお、売買契約書には、土地の品質が契約の内容に適合しない場合、売主は、引渡完了日から3か月以内に通知を受けたものに限り契約不適合責任を負う、という特約が付いていました。
引渡し後、自宅の建築工事に着手したところ、工事の初期段階で、土地の北側境界付近にある塀に沿って、深さ約50センチメートルの地中に、幅約40センチメートル、長さ約6.9メートルの排水管パイプが埋設されていることが判明しました。また、この塀の地中基礎部分が隣地に越境していることも分かりました。
建築工事自体はそのまま進めることができ、自宅は完成して入居しましたが、私はその後、パイプの一部を撤去する工事を行い、工事費用として57万2000円を支出しました。
物件状況等報告書には「地中埋設物を発見していない」と記載され、チラシにも「整形地・更地」と書かれていたのに、実際には大きなパイプが埋まっていたのですから、売主に撤去費用などの損害賠償を請求することはできないのでしょうか?
売主の契約不適合責任とは
令和2年4月に施行された改正民法により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に改められました。
売買契約において、引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」であるときは、買主は、売主に対し、①目的物の修補などの追完請求(民法562条)、②代金減額請求(民法563条)のほか、③損害賠償請求や④契約の解除(民法564条、415条、541条、542条)をすることができます。
土地の売買では、地中にコンクリートガラ、廃材、浄化槽、杭、配管などの埋設物が残っていたケースで、契約不適合(改正前の事案では瑕疵)に当たるかがしばしば争われます。ここでのポイントは、地中に何かが埋まっていれば当然に契約不適合になるわけではない、という点です。「契約の内容に適合しない」かどうかは、当事者がどのような品質を合意していたか、そして、埋設物が土地の予定された利用目的(住宅の建築など)の支障となるかどうかによって判断されます。
また、品質に関する契約不適合については、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないと、原則として責任を追及することができなくなります(民法566条本文)。この点は特約で変更することができ、個人間の売買では、本件のように、引渡しから3か月以内に通知を受けた不適合に限って売主が責任を負う、といった特約が付されることが少なくありません。ただし、このような特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実については、売主は責任を免れることができません(民法572条)。
本件の主たる争点は
本件は、東京地方裁判所令和5年11月6日判決をモチーフにした事例です。
この裁判例では、買主Xが、売主Yに対し、地中埋設物が存在しないことおよび隣地への越境がないことが売買契約の内容として合意されていたと主張して、契約不適合責任または説明義務違反(債務不履行・不法行為)に基づき、パイプの撤去工事費用、残存部分の撤去費用、工事遅延による損害、慰謝料等の合計102万7000円の損害賠償を求めて訴えを提起しました。
第一審は、仮に契約不適合責任があるとしても、特約で定められた3か月以内にXがYへ通知したとは認められないとして、請求を棄却しました。Xはこれを不服として控訴し、控訴審では、
①パイプの埋設や塀の基礎の越境が契約不適合に当たるか
②引渡しから3か月以内の通知があったか
③Yは埋設や越境について悪意であったか(悪意であれば特約にかかわらず責任を負うか)
④Yに説明義務違反があったか
⑤損害の有無・額
が争点となりました。
裁判所の判断
控訴審である東京地方裁判所は、争点のうち①と④について次のように判断し、その余の争点を判断するまでもないとして、Xの請求を棄却しました。
どのような品質の合意があったか
裁判所は、まず、本件の売買契約において、土地の品質としてどのような内容が合意されていたかについて、次のように述べました。
| 本件土地が宅地として売買されたものであり、本件契約の締結に際して地中埋設物が存在しない旨の売主の認識が示され、本件契約の前にされた建物撤去工事に際し、地中より発見されたガラが撤去され、新たに土が入れられた旨の説明がされたことからすれば、本件契約において、建物撤去工事の際に掘削された部分について、少なくとも本件土地上に建物を建築するのに支障となる埋設物が存在しないことが本件土地の品質として合意されていたと認めることができる。 |
このように、一定の範囲では品質の合意があったことを認めたうえで、次のように述べて、合意の範囲を限定しました。
| もっとも、地中埋設物がない旨の説明は売主であるYの認識を示したにとどまり、建物撤去工事に際してガラを撤去した旨の説明も、あくまで建物撤去工事の際に掘削した範囲にとどまるものであり、本件土地全体について地中埋設物がないことまで確認したことを説明したものではないから、本件土地全体におよそ地中埋設物が存在しないことが本件契約の内容であったということはできない。 |
つまり、物件状況等報告書の「地中埋設物を発見していない」という記載は、売主の認識を示したものにすぎず、土地全体に埋設物が存在しないことを契約内容として保証したものではない、と判断したのです。
パイプの埋設は建築の支障となったか
次に裁判所は、発見されたパイプが上記の合意に反するものかについて、次のように述べました。
| 本件パイプが本件土地の北側境界付近の本件塀に沿って埋設されていたことからすれば、建物解体工事に際し、本件パイプの埋設箇所が当然に掘削されるべきであったということはできないし、本件パイプが本件契約前に解体された建物に接続していたことを認めるべき証拠もないことからすれば、本件パイプが建物解体工事の際に当然に発見されて撤去されるべきであったともいえない。そして、本件パイプの埋設が判明した後も自宅建築工事は進行して完成に至っており、本件パイプの埋設が自宅建築に大きな支障となったものとは認められない。 |
そのうえで、次のように結論づけました。
| 以上に照らせば、本件パイプが、本件土地上に建物を建築するのに支障となる埋設物であったと認めることはできず、本件土地の品質に関する契約不適合があったとはいえない。 |
チラシの「整形地・更地」という表示について
Xは、販売チラシに「整形地・更地」と記載されていたことから、土地の品質として、パイプが埋設されていないことが合意されていたとも主張しました。しかし裁判所は、次のように述べて、この主張を退けました。
| 「更地」とは土地上に建築物がない状態を、「整形地」とはその敷地が整形された土地を指すものと一般に考えられるのであって、それらの記載をもって、本件契約において、本件土地の品質に関し、前記認定の合意内容を超える合意がされていたということはできない。 |
塀の基礎の越境について
塀の地中基礎部分が隣地に越境していた点についても、裁判所は次のように述べて、契約不適合には当たらないと判断しました。
| 本件基礎の越境についても、本件契約締結の際の越境がない旨のYの説明は、あくまでもYの認識を示したものにとどまり、地中における基礎の越境がないことまでが本件土地の品質として合意されていたということはできず、また、越境の範囲も、本件土地と隣地との境界付近に限局されていたことがうかがわれ、現に越境によって具体的な支障が生じている事実が認められないことからしても、本件基礎の越境をもって本件契約に契約不適合があったということはできない。 |
説明義務違反について
Xは、Yには、売却にあたって土地全体を掘削するなどして地中埋設物等の有無を調査すべき義務があり、また、塀付近を掘削していないのであればその旨を説明すべき義務があったのに、ガラを撤去した旨を説明して土地全体を掘削したかのような説明をしたことが説明義務違反に当たると主張しました。
まず、調査義務の主張について、裁判所は次のように述べました。
| 本件土地のチラシに記載された「更地」「整形地」が指す意味については前述したとおりであって、それらの記載によって本件土地がその全体を掘削し、地中埋設物等の有無について調査を経た土地であることを示すものとはいえないし、その他、本件契約の内容に照らしても、前記のような調査義務がYにあったとは認められない。 |
次に、説明義務の主張についても、次のように述べて、いずれの主張も退けました。
| 建物解体時に地中よりガラを撤去した旨の説明は、あくまでも建物解体に際して掘削した際の対応を説明したにすぎず、本件土地全体について掘削し地中埋設物を撤去した旨を説明したものではないことは前述のとおりであり、Yに説明義務違反は認められない。 |
まとめ
本判決は、物件状況等報告書の「地中埋設物を発見していない」という記載やチラシの「整形地・更地」という表示は、土地全体の品質を保証するものではないとしたうえで、①品質の合意は建物解体時に掘削された部分について建築に支障となる埋設物がないという範囲にとどまること、②発見されたパイプが自宅の建築に大きな支障となったとは認められないことを理由に、契約不適合責任を否定しました。
地中埋設物が発見されたからといって直ちに売主の責任が認められるわけではなく、契約書・チラシ・物件状況等報告書の記載からどのような品質の合意があったと読み取れるか、埋設物の位置・規模や予定された土地利用への支障の程度がどうかによって判断されることを具体的に示した事例であり、契約不適合責任の考え方として参考になります。
土地を売却する側にとっては、物件状況等報告書に自分が把握している事実(どの範囲を掘削したのか、何を発見したのか)を正確に記載しておくことが紛争の予防につながることを、購入する側にとっては、報告書やチラシの記載が土地全体の品質を保証するものとは限らないことを踏まえ、気になる点は契約前に調査・確認しておくことの重要性を示しているといえるでしょう。
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。
