弁護士コラム

地方住宅供給公社の公社住宅の家賃改定にも借地借家法32条(賃料増減額請求権)の適用があるとされた事例

2026.09.21

【賃借人からの相談】

私は、ある県の住宅供給公社(Y)が貸している公社住宅の一室に、20年近く住んでいます。入居した当時の家賃は月額4万円ほどでしたが、おおむね3年ごとに「家賃改定のお知らせ」という通知が届き、そのたびに家賃が上がってきました。今では入居時の1.5倍以上の家賃になっています。

同じ団地の住人(Xら)と話をすると、皆同じように家賃が上がり続けており、納得していない人が多いことが分かりました。ところが、公社の窓口に問い合わせると、「公社の家賃は法律に基づく規則で決まるので、民間の賃貸のように不服を言うことはできません」と言われました。

民間のアパートやマンションであれば、家賃が高すぎるときには賃料の減額を求めたり、値上げに応じないでいることができると聞いたことがあります。公社住宅の賃借人には、そうした権利はまったくないのでしょうか。これまでの家賃改定が高すぎたと認められれば、払いすぎた家賃を返してもらうことはできないのでしょうか。

借地借家法32条の賃料増減額請求権

建物の賃貸借において、いったん合意した賃料が、その後の事情の変化によって不相当になることは珍しくありません。そこで借地借家法32条1項は、建物の借賃が、①土地・建物に対する租税その他の負担の増減、②土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、③近傍同種の建物の借賃との比較のいずれかによって不相当となったときは、「契約の条件にかかわらず」、当事者は将来に向かって借賃の増減を請求することができると定めています(借賃増減請求権)。ただし、一定の期間借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その特約に従います(同項ただし書)。

この賃料増減額請求権は、相手方の承諾を必要としない形成権であり、請求の意思表示が相手方に到達した時点で、客観的に相当な額まで賃料が増減する効果が生じるものと解されています。もっとも、いくらが「相当な額」かは、当事者間で協議が調わなければ最終的に裁判で決まることになります。

そこで、同条2項・3項は、裁判が確定するまでの暫定的な処理を定めています。賃貸人から増額請求を受けた賃借人は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、自分が相当と認める額の賃料を支払っていれば足ります(2項本文)。ただし、裁判の確定後、既払額に不足があれば、不足額に年1割の利息を付して支払わなければなりません(2項ただし書)。逆に、賃借人から減額請求を受けた賃貸人は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、自らが相当と認める額の賃料を請求することができますが、裁判の確定後、既に受領した額が正当な賃料額を超えていれば、超過額に受領時からの年1割の利息を付して返還しなければなりません(3項)。

もっとも、増額請求に納得できないからといって、賃料の支払を止めたり、明らかに不相当な低額のみを支払ったりしてよいわけではありません。支払額によっては債務不履行として契約を解除されるおそれがあり、実際の対応には慎重な検討が必要です。

地方住宅供給公社と公社住宅の家賃

地方住宅供給公社(以下「地方公社」といいます。)は、地方住宅供給公社法(以下「公社法」といいます。)に基づいて設立される法人です(公社法2条)。公社法1条は、地方公社の目的を、おおむね、住宅の不足の著しい地域において、住宅を必要とする勤労者の資金を受け入れ、これを活用して、これらの者に居住環境の良好な集団住宅及びその敷地を供給し、もって住民の生活の安定と社会福祉の増進に寄与することにあるものとしています。地方公社は、この目的を達成するため、住宅の積立分譲のほか、住宅の建設・賃貸その他の管理及び譲渡などの業務を行うことができます(公社法21条1項、3項)。

公社法22条は、地方公社が住宅の賃貸等に関する業務を行うには、勤労者の適正な利用が確保され、かつ、家賃が適正なものとなるように努めなければならないことを定めています。さらに公社法24条は、地方公社が住宅の賃貸等の業務を行うときは、「他の法令により特に定められた基準がある場合においてその基準に従うほか、国土交通省令で定める基準に従つて行なわなければならない。」と定めています。

この委任を受けた国土交通省令である地方住宅供給公社法施行規則(以下「公社規則」といいます。)16条2項は、次のように定めています。

地方公社は、賃貸住宅の家賃を変更しようとする場合においては、近傍同種の住宅の家賃、変更前の家賃、経済事情の変動等を総合的に勘案して定めるものとする。この場合において、変更後の家賃は、近傍同種の住宅の家賃を上回らないように定めるものとする。

地方公社が定期的に家賃改定を行う際の根拠として持ち出されるのが、この公社規則16条2項です。この規定が、借地借家法32条1項を排除する「特別の定め」に当たるのか、それとも地方公社が家賃を変更するときに従うべき基準を示したにすぎないのかが、本件の中心的な問題となりました。

なお、県営住宅・市営住宅などの「公営住宅」は、公営住宅法に基づき地方公共団体が低額所得者向けに供給する住宅であり、公社住宅とは別の制度です。

本件の事案と争点

本件は、最高裁判所第一小法廷令和6年6月24日判決(令和4年(受)第1744号、民集78巻3号335頁)をモチーフにした事例です。

Yは、公社法にいう地方公社であり、ある県内で多数の住宅を賃貸していました。Xらは、それぞれYから一棟の建物の一室を賃借していた賃借人です。Yは、平成16年4月から平成30年4月までの間、おおむね3年ごとに、Xらに対して各室の家賃を改定する旨を通知しました(本件各家賃改定)。その結果、月額3万9530円ないし5万6350円であった家賃は、最終的に月額6万1950円ないし8万6910円になるものとされました

Xらは、Yに対し、本件各家賃改定のうち適正賃料を超える部分は効力を生じないと主張して、家賃額の確認を求めるとともに、不当利得返還請求権に基づき過払家賃の返還等を求めました(主位的請求)。

本件の主たる争点は、次の2点です。

公社住宅の使用関係に借地借家法32条1項の適用があるか
②本件各家賃改定による家賃の変更は有効か

裁判所の判断

争点① 公社住宅の使用関係に借地借家法32条1項の適用があるか

原審(東京高等裁判所)は、公社規則16条2項は借地借家法32条1項に対する特別の定めに当たるから、公社住宅の使用関係には同項の適用はないと判断し、本件各家賃改定による家賃の変更は有効であるとして、Xらの主位的請求を棄却すべきものとしました。これに対し、Xらが上告受理の申立てをしました。

最高裁判所は、まず、公社法1条・2条の目的と21条の業務規定を挙げたうえで、公社住宅の使用関係の性質について次のように述べました。

地方公社の上記業務として賃借人との間に設定される公社住宅の使用関係は、私法上の賃貸借関係であり、法令に特別の定めがない限り、借地借家法の適用があるというべきである。

そのうえで、公社法24条の趣旨は、地方公社の公共的な性格に鑑み、他の法令に特に定められた基準に加えて補完的、加重的な基準に従うべきものとし、その内容が専門的、技術的事項にわたることから国土交通省令に委ねることにあると解されるとして、次のように述べました。

そうすると、当該省令において、公社住宅の使用関係について、私法上の権利義務関係の変動を規律する借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対し、同項所定の賃料増減請求権とは別の家賃の変更に係る形成権を付与する旨の定めをすることが、公社法24条の委任の範囲に含まれるとは解されない。また、公社規則16条2項の上記文言からしても、同項は、地方公社が公社住宅の家賃を変更し得る場合において、他の法令による基準のほかに従うべき補完的、加重的な基準を示したものにすぎず、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対して上記形成権を付与した規定ではないというべきである。このほかに、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用が排除されると解すべき法令上の根拠はない。
以上によれば、公社住宅の使用関係については、借地借家法32条1項の適用があると解するのが相当である。

争点② 本件各家賃改定による家賃の変更は有効か

最高裁判所は、これと異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決を破棄し、「更に審理を尽くさせるため」本件を東京高等裁判所に差し戻しました。したがって、本件各家賃改定が借地借家法32条1項のもとで有効といえるか、すなわち改定後の家賃が相当な額といえるかどうかは、最高裁判所では判断されておらず、差戻し後の審理に委ねられています。

なお、差戻後の控訴審である東京高等裁判所令和8年3月4日判決(令和6年(ネ)第3387号)は、Xらの控訴を棄却し、過払家賃の返還請求を認めませんでした。

まとめ

本判決は、地方公社が賃貸する公社住宅の使用関係も私法上の賃貸借関係であり、公社規則16条2項は借地借家法32条1項の適用を排除するものではないことを明らかにしました。公社住宅の賃借人も、民間の賃貸住宅の賃借人と同様に、家賃改定の相当性を借地借家法32条の枠組みで争うことができることになります。もっとも、借地借家法32条1項の適用があることと、個々の家賃改定が不相当と認められるかどうかは別の問題です。

賃貸人の側にとっても、規則等に基づいて定型的に賃料改定を繰り返してきた場合に、個々の改定の相当性を後から争われ得ることになります。

この記事は、2026年9月21日時点の情報に基づいて書かれています。

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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