
【買主からの相談】
私は、築約28年の中古の共同住宅(賃貸用)を、宅地建物取引業者であるY社から代金5450万円で購入し、引渡しを受けました。契約の際、Y社側の担当者から、数年前に外壁の塗装工事をしたときの施工写真と保証書を渡され、「外壁に関しては問題ない」という説明を受けました。
ところが、引渡しから約2年1か月後、台風が接近して激しい雨が降った際に、建物3階の一室の台所の窓まわりや天井付近から水が漏れてきました。業者に調べてもらったところ、建物の外壁のシーリング(コーキング)に多数のひび割れが生じており、そこから雨水が入り込んでいるとのことでした。私は自分の費用で補修を行い、102万円余りがかかりました。
売買契約書には、隠れた瑕疵についての請求は引渡しから2年以内とされていましたが、「補修の請求に限り引渡しから3年間できる」という特約がありました。そこで私は、Y社側の窓口に漏水状況の報告書と写真、見積書を送って対応を求めましたが、何の回答もありません。
特約の保証書には「築年数相応の自然損耗、経年劣化、耐用年数切れが原因で起きた雨漏り、水漏れ又は不具合等は、瑕疵担保責任の対象ではない」とも書かれていましたが、外壁は問題ないと言われて買ったのに、2年ほどで雨漏りする建物がまともな品質だったとは思えません。Y社に補修費用を請求することはできないのでしょうか。
中古住宅の雨漏りと売主の責任(瑕疵担保責任・契約不適合責任)
売買の目的物に欠陥があった場合、改正前の民法では、売買の目的物に「隠れた瑕疵」があるとき、買主は売主に対して損害賠償を請求することができ、契約の目的を達することができない場合には契約を解除することができるとされていました(改正前民法570条、566条)。
これに対し、現行民法では「瑕疵」という言葉は使われず、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときに、買主は、民法562条から564条その他の各規定の要件に従い、履行の追完、代金減額、損害賠償又は契約解除を求めることができます。種類・品質の不適合は、知った時から1年以内に売主へ通知しなければ、原則としてこれらの権利を行使できません(民法566条)。
ここで大切なのは、新旧いずれの制度でも、判断の出発点は「その売買契約で、どのような品質の建物が引き渡されることが予定されていたか」だという点です。中古住宅の売買では、新築と同じ性能が約束されているわけではありません。築後相当の年数を経た建物として、引渡し後に経年劣化による不具合が出てくる可能性があることが、いわば契約の前提に織り込まれています。そのため、中古住宅で不具合が起きたからといって、当然に売主が責任を負うわけではありません。
実際の売買契約書には、「築年数相応の自然損耗・経年劣化・耐用年数切れが原因の雨漏りや設備の不具合は責任の対象外とすること」といった条項が置かれることがよくあり、これが契約で予定された品質の水準を具体化しています。
なお、宅地建物取引業者が自ら売主となり、買主が宅地建物取引業者ではない場合には、宅地建物取引業法40条により、契約不適合の通知期間について引渡しの日から2年以上とする特約をする場合を除き、民法の規定よりも買主に不利となる特約は無効とされます。
本件の主たる争点は
本件は、東京地方裁判所令和3年11月25日判決をモチーフにした事例です。本件の売買契約は平成29年7月に締結されたものであるため、改正前民法の瑕疵担保責任が問題となっています。
買主Xは、外壁のコーキング不良という瑕疵による雨漏りの補修を請求したのに売主Y社(及び売主の債務を重畳的に引き受けた窓口会社)が応じなかったとして、補修工事代金102万円余の支払を求めました。
主な争点は、次のとおりです。
① 売買契約の締結時点で、外壁のシーリング(コーキング)にひび割れが生じていたといえるか
② 契約締結から約2年1か月で雨漏りを招くようなシーリングの状態が、契約時点で「通常の品質」を欠くものとして瑕疵に当たるか
③ 契約時に外壁塗装工事の保証書を渡し「外壁は問題ない」と説明した売主側が、経年劣化を主張することは信義則に反しないか
④ Xが売主側に対して瑕疵の修補を請求したといえるか
⑤ 損害額
裁判所の判断
1 契約締結時にひび割れがあったといえるか
Xは、吊り戸棚のシミや木部の傷み方から以前から雨漏りしていた可能性が高く、補修工事の際に外壁のコーキングに多数のひび割れが見つかったと主張し、Y社側は、契約時にひび割れがあったことの立証はされていないと反論しました。
裁判所は、漏水の発生とひび割れの存在は認めたうえで、次のように述べました。
| 令和元年8月6日,九州地方に台風が接近したことに伴う降雨により,本件建物301号室の北東側から本件漏水が生じたこと,本件漏水時点で本件建物3階部分の北東側の外壁のシーリングないしコーキングに多数のひび割れが生じていたことが認められる。 しかし,上記のひび割れが本件売買契約の締結された平成29年7月10日の時点で生じていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。 |
2 契約時点で「通常の品質」を欠いていたといえるか
Xは、仮に契約時にひび割れがなかったとしても、約2年1か月しか経過していない時点で雨漏りを招くような状態であった以上、契約時点で通常の品質を有していなかったと主張しました。Y社側は、築年相応の経年変化があることを共通認識として契約したのであり、コーキングのひび割れは築年相当の経年劣化であると反論しました。
裁判所は、本件建物が契約時点で築28年弱の中古建物であったこと、築年相応の経年変化を踏まえた現況有姿売買として、引渡し後の経年劣化による故障等は隠れた瑕疵に当たらない旨を特約条項と保証書で合意していたことを認定したうえで、次のように述べました。
| 外壁用のシーリング材の耐用年数は一般に5年から10年程度であることが認められる。 このように,本件建物が中古建物であることを前提に,本件売買契約において,経年劣化は瑕疵担保責任の対象外とする合意をし,本件建物の引渡時に正常に稼働していることを確認している一方,その後に顕在化したシーリングないしコーキングのひび割れの発生は,一般的なシーリング材の耐用年数を考慮すると,経年劣化によるものといわざるを得ないことに照らすと,このひび割れは本件売買契約において修補の対象とされる瑕疵に当たるということはできない。 |
3 「外壁は問題ない」との説明と信義則違反の主張について
Xは、契約の際に平成23年の外壁補修工事の報告書を受け取り、外壁には問題がないと説明されたのだから、Y社側が外壁の品質を保証したものであり、経年劣化の主張は信義則に反すると主張しました。Y社側は、その工事の保証期間は2年で契約時には過ぎており、報告書が外壁の状況を保証する趣旨とはいえないと反論しました。
裁判所は、Xに交付された書類の中に塗装業者作成の「塗膜保証書」があることを認めたうえで、次のように述べました。
| 本件保証書には,保証事項として材料に起因する塗膜の剥離及び急激な変退色,保証期限として平成23年9月1日より向こう2年間との記載がある上,シーリング材料上の塗膜並びにシーリング材に起因する事故などの支障は除外する旨の記載があることが認められる。 以上に照らすと,本件保証書は,あくまで本件建物の外壁の塗装の塗膜について平成23年9月1日の工事から2年間を保証したものにとどまり,シーリングないしコーキングについて保証したものとはにわかに解し難い。これに前記(2)認定のとおり,外壁用のシーリング材の耐用年数は一般に5年から10年程度であることを併せると,仮に,Y社側の担当者がXに対し,外壁については問題がない旨述べたとしても,本件売買契約の締結時点におけるシーリングないしコーキングの状態まで保証したものと認めることはできず,Xの主張は採用できない。 |
以上により、裁判所は、契約締結当時に本件建物に瑕疵があったとは認められないとして、修補請求の有無や損害額について判断するまでもなく、Xの請求をいずれも棄却しました。
まとめ
中古住宅で雨漏りが起きても、それが築年数相応の経年劣化によるものであれば、売主の責任は否定されます。本件では、契約時からひび割れがあったという証拠がなく、経年劣化を責任の対象外とする合意があり、シーリング材の耐用年数が一般に5年から10年程度であったことが決め手となりました。「外壁は問題ない」という担当者の説明も、保証書が塗膜だけを2年間保証するものだったため、コーキングの品質保証とは認められませんでした。
買主としては、契約前に建物状況調査(インスペクション)で劣化の程度を把握し、契約書の免責条項と責任期間を確認しておくことが大切です。裁判に発展した場合、担当者の口頭の説明よりも、保証書や契約書に何がどこまで書いてあるかが決め手になります。
この記事は、2026年9月25日時点の情報に基づいて書かれています。
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。
