自宅と一体の建物の一部をサブリース業者に賃貸していたオーナーについて、更新拒絶の正当事由が認められた裁判例
賃貸物件オーナーからの相談
私は、自宅と同じ建物の一部を賃貸用の居室(4室)にして、サブリース業者に建物を一括で貸しています(マスターリース契約)。建物は、私の自宅部分と賃貸部分とが、ひとつの建物としてつながった構造になっています。
もともとは、私の母が、このサブリース業者との間で、業者が賃貸用の居室を一括して借り上げ、各室を入居者に転貸するという内容の契約を結んでいました。契約期間は、業者から「2年から30年の間で選べる」と説明され、母が4年間を選んでいます。その後、母が亡くなり、私が貸主の立場を引き継ぎました。
マスターリース契約は当初2年ごとに更新していましたが、数年前、居室で夜中に大勢が騒ぐということがあり、私は一度、契約の解約を申し入れました。そのときに、業者の管理対応を見極めたいと考え、それ以降は契約期間を1年間に区切って更新し、対応が改善しなければ契約を終わらせる、ということにして更新を続けてきました。
しかし、その後も、入居者の同居人の把握が遅れたり、ある居室が無断で民泊に使われていたことが後から判明したりと、管理面の不安は解消されませんでした。また、入居者との賃貸借契約は、いつの間にか業者本体ではなく業者の関連会社が結ぶ形になっていました(私は、このような転貸を承諾した覚えはありません)。
そこで、業者との契約を終了し、今後は自分で入居者を選んで直接管理したいと考えています。サブリース業者との契約を、こちらから更新拒絶して終了させることはできるのでしょうか。
サブリース(マスターリース)契約の法的な位置づけ
近年、建物のオーナーが不動産会社(サブリース業者)に建物を一括して貸し、業者がこれを入居者に転貸する「サブリース(マスターリース)契約」が広く利用されています。オーナーにとっては、空室の有無にかかわらず業者から一定の賃料(保証賃料)を受け取ることができるという利点があります。
もっとも、オーナーの側から契約を終了させることが、常に自由にできるわけではありません。サブリース契約のうち、オーナーと業者との間の建物賃貸借部分(マスターリース契約)には、借地借家法が適用されると解されているためです。
したがって、契約期間が満了しても、オーナー(賃貸人)の側から更新を拒絶するには、借地借家法28条の「正当の事由」が必要となります。契約書に「○か月前に通知すれば解約できる」旨の定めがあっても、それだけで当然に契約を終了させることができるわけではありません。
借地借家法28条の「正当事由」とは
借地借家法28条は、建物賃貸借の更新拒絶・解約申入れについて、次のように定めています。
| 「建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」 |
この規定によれば、正当事由は、①賃貸人・賃借人が建物の使用を必要とする事情を主たる要素とし、これに、②賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況及び現況、④立退料の提供の申出といった事情を加えて、総合的に考慮して判断されます。
もっとも、サブリース契約の場合、業者は建物に居住しているのではなく、転貸による収益を目的として建物を使用しています。そのため、一般的な居住用建物の事案とは異なり、契約締結に至る経緯、契約存続に対する当事者双方の期待の程度、サブリース業者としての管理の実態なども考慮して判断されることになります。
サブリース契約の更新拒絶に正当事由が認められるか
冒頭の事例は、東京高裁令和6年1月8日判決の事例をモチーフにしたものです。この事案は、自宅と構造的に一体となった建物の一部をサブリース業者に貸していたオーナーが、業者の管理状況などを理由に更新を拒絶し、その正当事由が認められるか否かが問題となったものです。以下では、東京高裁の判断を紹介します。
裁判所(東京高裁)の判断
東京高裁は、次の各事情を総合して、本件更新拒絶には正当事由があると認め、明渡請求を認容しました。なお、判決の表現では、サブリース業者が「控訴人」、オーナーが「被控訴人」と表記されています。
(1) 当初の契約期間・契約存続への期待について
裁判所は、当初の契約期間が「2年から30年」の選択肢のなかからオーナー側の選択で4年間とされたことや、業者から更新拒絶に正当事由が必要である旨の説明を受けていなかったことは、オーナー側に、期間が経過すれば容易に契約を解消できるとの誤信を生じさせかねないものであり、正当事由を基礎づける一事情に当たるとしました。もっとも、その影響は限定的であるとして、次のように述べています。
| もっとも、当初の契約期間の定め自体は更新拒絶に正当事由が必要であることを何ら左右するものではなく、控訴人において、同期間に限定されることを前提とした事業計画を立てていたというような事情も見当たらないから、上記事情の影響は限定的であり重視することはできない。 |
あわせて、業者の管理対応を見極めるために契約期間を1年間に短縮した経緯についても、業者がこれに応じたこと自体が、契約存続に対する期待の観点から、正当事由を認める方向に働く事情であるとしました。
(2) 入居者の把握・管理について
本件で正当事由を認める方向に大きく働いたのが、入居者の把握・管理に関する業者の対応の不備です。裁判所は、この点について次のように述べました。
| 入居者の把握・管理については、被告の対応は、同居者の把握が遅れたり、同居者について十分な情報が得られないといったことのほか、本賃貸物件において民泊事業を行う入居者がいたことを把握できていないなど、後手に回る対応となっており、原告側の不安や懸念を払拭するに足りるような対応をしてきたとはいえず、そもそも、入居者との賃貸借契約の締結の時点で、居住者に変動が生じる場合に必要な対応や禁止される事項などについて十分に説明・周知しているかについても疑念が生じるところであり、結局、被告が適切な対応を十分にしてきたとはいえないのであって、本件更新拒絶に正当事由が認められる方向に働く事情であるといえる。 |
(3) 無断転貸について
業者が関連会社に建物を転貸し、その会社が入居者に転貸していた点について、裁判所は、オーナーの承諾を欠く無断転貸であり契約違反に当たるから、正当事由を基礎づける事情に当たるとしました。もっとも、業者とその関連会社は、同一の事業所に本店を置く関連会社で、役員及び従業員を兼務し、賃料の支払先も業者名義の口座とされているといった事情から、次のように述べて、無断転貸を重視することはできないとしました。
| 上記諸事情によれば、控訴人が本賃貸物件をa社に無断転貸したことにより、本マスターリース契約に基づく本賃貸物件の管理運営に具体的な支障を生じさせるおそれは乏しく、貸主である被控訴人に与える影響も小さいというべきであるから、上記無断転貸を更新拒絶の正当事由として重視することはできない。 |
(4) 双方の使用の必要性の比較について
裁判所は、双方の建物使用の必要性について、業者の管理物件が約1,200棟に及び、本件の建物はその一つにすぎず代替性があるのに対し、オーナーは建物の所有者であると同時に、構造的に一体をなす自宅部分に居住し、近隣住民として入居者から直接生活環境の影響を受けるため、その管理状況に重大な利害関係を有し、代替性がないとして、次のように判断しました。
| 以上のような控訴人と被控訴人の本賃貸物件の使用の必要性を比較すると、両者はともに本賃貸物件を入居者に賃貸することを使用目的とするものであるが、被控訴人は、本賃貸物件の所有者であるとともに本建物を構成する自宅部分に居住し、近隣住民としても本賃貸物件の入居者から直接生活環境に影響を受けるので、その管理状況に重大な利害関係を有するため、本賃貸物件との関係に代替性がないのに対し、控訴人の本賃貸物件の使用の必要性は上記多数の管理物件の一つにとどまり、代替性があるから、被控訴人の使用の必要性は控訴人の使用の必要性を上回るものと認められる。 |
このように、裁判所は、無断転貸や当初の契約期間といった事情を、それぞれの実態に即して評価したうえで、オーナー自身が建物に居住し、入居者の管理状況がオーナーの生活に直結していることを重視して、正当事由を認めたものといえます。
実務上のポイント
本件で正当事由が認められた背景には、オーナーが賃貸部分と一体の建物に居住し、入居者の管理状況がオーナー自身や家族の生活に直結していたという事情があります。オーナーが建物に居住しておらず、もっぱら収益目的で賃貸しているにとどまる事案では、使用の必要性は相対的に低くなり、正当事由は認められにくくなると考えられます。
また、本件では、管理対応を見極めるために契約期間を1年間に短縮した経緯が、正当事由を基礎づける一事情として評価されている一方で、無断転貸や当初の契約期間の長さといった事情は、それ自体が当然に決定的な意味を持つわけではなく、関連会社間の転貸で実害が小さいといった実態に即して評価されています。
本件は、サブリース契約において、個々の事情が正当事由の有無の判断においてどのように評価されるかについて参考になる事例です。
この記事は、2026年6月6日時点の情報に基づいて書かれています。
この記事の監修者
北村 亮典東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。
