不動産

店舗の無断40年間続いた賃貸借契約において、転貸・無断の模様替えを理由に契約は解除できるのか? 

2026.07.02

店舗の無断40年間続いた賃貸借契約において、転貸・無断の模様替えを理由に契約は解除できるのか?

【賃借人側からのご相談】

私の父は、昭和54年から、都内の繁華街にあるビルの2階の店舗を、オーナーから借りていました。

当初はそこで父自身がスナックを営んでいましたが、健康上の理由もあり、平成12年頃にトルコ料理店へと改装し、はじめは知人に営業を任せる形で、その後は知人に店舗を貸す形で、営業を続けてもらってきました。現在は、その知人からさらに店を引き継いだ方が、トルコ料理店を営んでいます。
オーナーへの賃料は、当初は月額9万円でしたが、その後の更新や消費税の改定を経て、現在は賃料と共益費を合わせて月額20万円ほどです。父はこの賃料を、40年近くにわたり一度も滞納することなく支払い続けてきました。父は令和2年に亡くなり、私たち子どもが賃借人の地位を引き継いでいます。
ところが先日、オーナーから、「店舗が無断で又貸しされている、トイレや倉庫の位置を変える工事も無断で行われた、更新料も支払われていない」などとして、賃貸借契約を解除するという通知が届きました。オーナーは、店舗の明渡しに加えて、店を元の状態に戻す解体工事の費用として700万円以上も請求すると言っています。
父は、店を人に貸すことについてはオーナー側にも説明していたと聞いていますし、40年近くも賃料をきちんと払い続けてきました。

それでも、無断転貸などを理由に契約を解除され、店を明け渡したうえ、多額の原状回復費用まで負担しなければならないのでしょうか。

無断転貸や無断の模様替えは、なぜ契約解除の理由になるのか?

本件は、東京地方裁判所令和4年1月25日判決をモチーフにした事例です。

賃貸借契約は、賃貸人が賃借人その人を信頼して目的物を貸すという関係を基礎としています。そのため民法は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができず、これに違反して第三者に使用又は収益をさせたときは、賃貸人は契約を解除することができると規定しています(民法612条)。

もっとも、無断転貸があっても、それが賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、解除は認められないとされています(信頼関係破壊の法理)。

また、賃貸借契約では、賃借物の用途や使用方法に従って使用する義務(用法遵守義務)が課されており、契約上、店舗や造作の模様替えにあらかじめ賃貸人の書面による承諾を要する旨が定められることもあります。

本件の主たる争点は、

①無断転貸や無断の模様替えといった契約違反が認められるか

②それらが賃貸人に対する背信行為に当たらない特段の事情があるか

③そして契約終了後の原状回復義務の不履行を理由とする損害賠償が認められるか

という点でした。

裁判所はどのように判断したのか?

裁判所は、まず無断転貸があったと認めたうえで、契約に違反する無断の模様替えもあったと認め、賃貸人による契約解除を有効と判断し、店舗の明渡しと、賃料相当損害金、原状回復費用273万6800円の支払を命じました。以下、判決文を引用しながら解説します。

無断転貸について

まず、無断転貸の点について、裁判所は、賃貸人が転貸を承諾したとは認められないと判断しました。賃借人側は、賃貸人又はその窓口に転貸を説明して承諾を得たなどと主張しましたが、裁判所は次のように述べています。

Aあるいは原告が、Y1あるいはB、被告Y5に対し、転貸を承諾する旨の意思表示をした事実は認められない。仮に、上記B、協達、Y1が被告Y5に対し、そのような発言をした事実があったとしても、当該発言の内容が真実であることを裏付ける証拠はない。他に、本件全証拠によっても、転貸を承諾する旨の原告の意思表示を認めるに足りない。

 このように、賃貸人が転貸を知っていた・承諾していたと賃借人側が主張しても、それを裏付ける客観的な証拠がなければ承諾は認められない、という判断を示しています。

無断模様替えについて

次に、無断の模様替えについて、裁判所は次のように判示しています。

「店舗又は造作の模様替」を行うに当たっては原告の書面による事前の承諾が必要とされており(本件賃貸借契約5条)、トイレ及び倉庫の位置変更は工事を伴う部屋の用途の変更であり、「店舗又は造作の模様替」に当たると考えられるところ、原告の書面による承諾があったことを認めるに足りる証拠はない。

 ここでも、契約上、模様替えに賃貸人の書面による事前の承諾を要すると定められている場合に、その承諾なく工事を行ったことは契約違反に当たると判断しています。

信頼関係破壊は認められるか?

もっとも、無断転貸や契約違反があっても、それが賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば、解除は認められません。本件で賃借人側は、40年近くにわたって賃料の不払いがなかったこと、契約上、承諾料を支払えば造作の譲渡が認められる条項があることなどを理由に、無断転貸等があっても賃貸人との信頼関係を破壊する背信行為には当たらないと主張しました。この点について、裁判所は次のように述べています。

承諾料支払による店舗造作譲渡承諾条項の存在は、無断転貸を許容するものではないから、同条項の存在により無断転貸による解除権の行使は制限されない。Y1による転貸は、本件建物全ての転貸であるから、転貸が軽微な違反であるとも認められない。これらの事情に加え、被告Y5は、Y1に対し、本件賃貸借契約に基づきY1が原告に対して支払っていた倍の転貸料を支払っていた事実がうかがわれるから、Y1の転貸には営利性がうかがわれる。

 つまり、長年賃料の不払いがなかったとしても、建物全部を、しかも営利目的で無断転貸している場合には、信頼関係を破壊しない特段の事情があるとはいえない、という判断枠組みを示しています。

建物明渡し前の原状回復義務について

最後に、本件では、賃貸人は、まだ明渡しも原状回復もされていない段階で、原状回復(解体等)に要する費用の賠償を求めていました。原状回復義務は、本来、明渡しの際に問題となるものですから、明渡し前の段階で、その費用相当額を損害賠償として請求できるのかが問題となります。この点について、裁判所は次のように判示しています。

債務者に主観的に債務の履行意思が認められず、かつ、客観的にみても履行の意思を翻すことがまったく期待できない場合には、債権者は、債務者の履行拒絶を理由に、債務不履行に基づく損害賠償を請求することができると解される。

 つまり、賃借人側が解除の効力を一貫して争い、原状回復に向けた具体的な対応をしていないような場合には、履行意思がないと評価され、明渡し前であっても、履行拒絶を理由に原状回復費用相当額の損害賠償が認められうる、という考え方を示しています。もっとも、裁判所は、賃貸人が主張した774万4000円は高額であるとして、店舗の床面積などを踏まえ、原状回復費用としては273万6800円が相当であると認定しました。

最後に

本件は、40年間という長期間にわたり賃料が支払われてきた事業用建物の賃貸借であっても、建物全部の無断転貸や、契約に違反する無断の模様替えがある場合には、契約解除が認められうることを示した事例といえます。
転貸や模様替えについての承諾の有無についての証拠がなかったために、ここまでの紛争に発展したものと思われます。賃貸借に関わるこのような事象については、承諾の有無を含め、書面で記録を残しておくことが重要であるといえます。


この記事は2026年7月2日時点の情報に基づいて書かれています。

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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