不動産

深夜の騒音と貸主への脅迫的言動を理由に信頼関係の破壊が認められ、賃貸借契約の解除と空室損の賠償が認められた事例

2026.10.03

【賃貸人からの相談】

私は、東京都内に小さな賃貸マンションを1棟所有しており、その一室を個人の方に貸しています。

入居して間もなく、真下の部屋の入居者から「深夜に足音や物を引きずるような音がして眠れない」と苦情が寄せられました。借主に口頭で注意しましたが改まらず、深夜に荷物の搬入や人の出入りがあったことも確認できたため、契約違反である旨の通知書を送ったところ、借主は異議なく署名して返送してきました。その後、借主に同居人がいることが分かり、同居を認める際には、夜間は十分に注意して生活することを書面で約束してもらいました。

それでも騒音は止まず、真下の入居者は家賃を払ってくれなくなり、結局退去してしまいました。同じ苦情が出るのが心配で、その部屋は空室のままです。

改善を求めて借主らと話し合ったところ、逆に、借主と同居人、その知人らから「住めない状況にしたのはあなたのせいだ」と怒鳴られ責め立てられ、引越し費用や慰謝料などを要求されたうえ、一定期間借主に連絡しないこと、違反すれば賃料6か月分を支払うことを内容とする誓約書に署名させられました。後日には、合計450万円を求めるメッセージも届きました。

このようなことをされた以上、私としては借主との契約を解除して、出て行ってもらいたいです。また、空室となった部屋の家賃や、状況を把握するために設置した防犯カメラの費用も請求できるのでしょうか。

賃借人の迷惑行為と賃貸借契約の解除

賃借人は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従って、借りた物件を使用しなければなりません(民法616条による同法594条1項の準用)。これを用法遵守義務といいます。居住用の賃貸借契約書や管理規約には、「共同生活の秩序を乱す行為」や「騒音により近隣に迷惑を及ぼす行為」などを禁止する条項が置かれていることが多く、深夜の騒音などの迷惑行為は、こうした義務や条項の違反となり得ます。

そして、賃借人に債務不履行があれば、賃貸人は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に是正されないときは、契約を解除することができます(民法541条)。また、催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかな場合などには、催告なしに解除することができます(同法542条)。

もっとも、賃貸借は継続的な契約であることから、裁判実務上、契約違反があっても、当事者間の信頼関係を破壊するに至っていなければ解除は認められないとされています(いわゆる信頼関係破壊の法理)。逆にいえば、迷惑行為の程度や態様によっては信頼関係の破壊が認められ、解除が有効となることがあります。

契約書には「所定の事由があれば催告なしに解除できる」という無催告解除特約が置かれていることもあります。このような特約も、一般に、催告をしなくても不合理とはいえない事情がある場合に限って効力が認められると考えられています。

なお、同居人は賃貸借契約の当事者ではありませんが、迷惑行為によって賃貸人に損害を与えたり、契約終了後も居座ったりした場合には、不法行為(民法709条)として損害賠償責任を負うことがあります。

本件の主たる争点は

本件は、東京地方裁判所令和4年4月28日判決をモチーフにした事例です。

Xは、東京都内に共同住宅1棟を所有し、その一室(判決では「本件建物」と呼ばれています)をY1に賃貸しました。その後、Y2を同居人として認める際、夜間は十分注意を払って生活することなどを記載した同意書を取り交わし、賃料等(管理費込み)は月額17万8000円となりました。

騒音が続いたため、Xは改善を求めてYらとその知人らと話合いの場(判決では「本件話合い」)を持ちましたが、そこで逆に責任を追及され、金銭を要求されました。

そこで、Xは、令和3年5月、騒音や本件話合いでの言動などを理由に契約解除の意思表示をし、Yらを提訴しました。訴訟中に建物は明け渡され、Xは、明渡しまでの使用料相当損害金と損害賠償を求めました。解除事由としては、賃料等の2回分以上の延滞も主張されていました。Xの請求額は599万円余、裁判所が認めたのは421万円余でした。

主な争点は、次のとおりです。

① 本件建物からの騒音が、契約違反(Y2については不法行為)に当たるか
② 本件話合いでの言動や金銭要求が、契約で禁止された脅迫的言動等に当たるか
③ 賃料等の2回分以上の延滞が解除事由に当たるか
④ 解除により契約が終了したか、Xに生じた損害はいくらか

裁判所の判断

騒音について

Yらは、夜間は十分注意を払って生活しており、建物はもともと音が響きやすいから、苦情のあった騒音が本件建物から出たものとは断定できないと反論しました。

裁判所は、階下の入居者が深夜に階上からの足音や物を引きずるような音で睡眠を妨げられていたこと、Xが確認したところ深夜に本件建物への荷物の搬入や人の出入りがあり、Y1も異議を述べずに通知書に署名して返送していたこと、本件建物以外から騒音が生じたといえる事情もうかがわれないことから、騒音は本件建物で生じたものと認め、次のように述べました。

これらによれば、Yらが本件建物において騒音を発生させる迷惑行為を行ったことが認められ、これは、Y1との関係では、本件賃貸借契約における契約条項及び管理規約の条項に違反する「共同生活の秩序を乱す行為」、「騒音により近隣に迷惑を及ぼす行為」に当たるから債務不履行を構成し、Y2との関係では不法行為の成立が認められる。

貸主への脅迫的言動について

Yらは、本件話合いでは管理人と称する人物が粗暴な言動をしたため、Yらも感情的になって発言に至ったにすぎず、後日のLINEのメッセージも、期限までに金額を提示しただけで金銭の要求ではないと反論しました。

裁判所は、その人物は冒頭の10分ほどで退席し、その後はXが1人でYら及び知人らと対峙しており、X自身の言動は穏当だったとして、この反論を退けました。そのうえで、録音されていたYらの発言をそのまま認定した上で、Yは、騒音の改善を求める場で逆にXに責任を取るよう迫り、Xが支払義務を負わないことが明らかなものについて450万円という高額な請求をしたもので、Xは理不尽な誓約書を作成するほど困惑させられていたと指摘し、次のように述べました。

これらによれば、本件話合いにおけるYらの言動や、LINEのメッセージの送信行為は、本件賃貸借契約における契約条項(甲2)に違反する「自ら又は第三者を利用して相手方に対する脅迫的な言動を用いる行為」、「偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害する行為」に当たるから、Y1との関係では債務不履行を構成し、Y2との関係では不法行為の成立が認められる。

解除の有効性と損害について

騒音と脅迫的言動という二つの債務不履行を踏まえ、裁判所は、解除の有効性について次のように述べました。

上記2によれば、Y1には同(1)及び(2)の債務不履行が認められ、これによりXとの信頼関係が破壊されたものといえるから、その余の点について判断するまでもなく、令和3年5月29日にされた解除の意思表示により、本件賃貸借契約は同日をもって終了したものと認められる。

Xが主張していた賃料等の延滞は、このように判断されないまま、解除が有効とされています。

損害については、次のとおり認められ、Yらは連帯して合計421万1690円を支払うよう命じられました。
・使用料相当損害金 215万8967円(契約条項に基づき、解除の翌日から明渡しまで、賃料等2か月分に相当する月額35万6000円。Y2も所有権侵害の不法行為として同額の責任を負う)
・階下の201号室の逸失利益 129万8000円(階下の入居者が騒音を理由に令和3年1月分から3月分の賃料等を支払わず、退去後も同様の苦情をおそれて貸せなかったため、同年1月から明渡しまでの11か月分)
・防犯カメラ等の設置費用 37万4723円
・弁護士費用 38万円(請求は110万円)

他方、治療費・通院慰謝料は、Xが体調を崩して通院したことは認められるものの、原因が明らかでなく、受診が本件話合いより前であったことなどから、Yらの行為によるものとは認められませんでした。

まとめ

本判決は、賃料の延滞について判断するまでもなく、深夜の騒音と、改善を求めた貸主への脅迫的言動・高額な金銭要求という債務不履行によって信頼関係が破壊されたとして、解除を有効と認めました。契約当事者でない同居人にも不法行為責任を認め、借主と連帯して賠償を命じています。

また、騒音が原因で空室となった階下の部屋の賃料相当額まで損害と認められた点も注目されます。口頭での注意、通知書への署名、同意書での約束と、段階を踏んだ対応の記録が、騒音の発生源の認定を支えたと考えられます。

この記事は、2026年10月3日時点の情報に基づいて書かれています。

この記事の監修者

北村 亮典東京弁護士会所属

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。東京弁護士会所属、大江・田中・大宅法律事務所パートナー。 現在は、建築・不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理に注力している。

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