生前贈与を受けた相続人が、被相続人の死後に相続放棄をした場合、その者に対して遺留分の請求はできるか?

Q 父が死亡しました。相続人は私と兄の2人です。

父は生前に自宅の土地と建物(時価3000万円相当)を有していたはずだったのですが、亡くなったあとに登記を調べてみると、亡くなる3年ほど前に土地と建物の名義を兄の名義に変更していました。父には他には財産はありません。

なお兄は、父の死後相続放棄の手続をしています。

私は、相続できる財産もなく、しかし、兄だけが生前に父から自宅の土地と建物を譲り受けており不公平です。

遺留分として自宅の土地と建物の4分の1の持分を兄に請求することは出来ないのでしょうか。

A その生前贈与が死亡する1年前までになされたものか、「遺留分を侵害することを知ってなされたものである」と証明できなければ、遺留分減殺請求はできません。

相続人に対する生前贈与は、基本的には何年以上前になされたものであっても遺留分減殺請求の対象となります(最高裁判所平成10年3月24日判決)。

なぜなら、そのように解しないと、被相続人が特定の相続人だけに全財産を生前贈与してしまった場合に遺留分の制度が全く無意味となってしまうからです。

したがって、通常であれば、本件のケースにおいても、弟は自宅の土地と建物の4分の1の持分について兄に対して遺留分を主張し、遺留分減殺請求をすることが出来ます。

しかし、本件では、兄が相続放棄をしているという事情があるため、上記の場合とは異なります。

相続放棄をした者はそもそも相続人としての資格を有しないこととなるので、本件の贈与は「相続人に対する贈与」ではなく、いわゆる「第三者への贈与」と同等に扱われることになります。

したがって、上記の最高裁判例の理屈は適用されず、民法1030条の要件、すなわち、

・生前贈与が死亡する1年前までになされたものか、

又は、

・遺留分を侵害することを知ってなされたもの

のいずれかでない限りは、遺留分減殺請求の対象とはなりません。

本件では、兄は父が死亡する3年前に生前贈与を受けていますので、上記の要件にも該当しません。

したがって、相談者は、基本的には兄に対しては遺留分減殺請求をすることも出来ないのです。

このような状況を「法の不備」として批判する学説もありますが、現状では、このような生前贈与については、「遺留分を侵害することを知ってなされたものである」と主張していくしかないと考えられます。

2015年11月30日更新